りうりうさん日乗

ほとんどフマジメときどきマジメ。 漫画やら映画やらスポーツやらをつらつらと。

カテゴリ:書評 > サッカー関連書評

「フロンターレのスタッフは縦横無尽につながっている。
 一つの企画が立ち上がれば、上は社長から下はアルバイトスタッフ、
 横を見ればチーム強化の部長でさえ企画実現に動き、アドバイスを
 送ってくれる (P28)」


計算ドリルを作ったり、一緒にお風呂に入ったり。
斬新な企画を次々生み出すことで知られる川崎フロンターレのキーマンによる
2011年6月に発売された本書。

他のクラブのサポから見るとただただすごい、うらやましいなと羨望のまなざしを
送るだけなのであるが、結局は冒頭にあげたスタッフのチーム力につきる。

もちろんそれを引き出す人物の存在、というのが大きいのだろうけど。

タイトルにもなった算数ドリル。最初に教育委員会にアプローチした時は、
当然のごとく難色を示されたらしい。営利企業の宣伝になる、と。

私も聞いたところでは、徳島も当初は学校でのチラシ配布やポスター張りも
同様の理由で難しかったらしい。
(今は無料招待のチラシなんかも配ってくれてるようだが)。

ただ川崎ではさらに進んで、
ドリルは副教材、副教材は学校判断ということでまずはモデル校で実現し、
そのうえ川崎市の予算を勝ち取って配布することに成功している。
(2014年はクラブが予算化してる模様)

本書冒頭に書かれるドリルのエピソードだけれど、
企画が生まれても実現には困難が多い。
簡単にはいかない。

そこで終わるか実現するかは、人にかかっているのだ。
スタッフもそうだし、協力してくれる相手もそうだ。
ドリルについては、校長先生が協力してくれた。

では、僕の応援するクラブが何かをしようとした時に、
どれだけの人が協力してくれるだろうか。
考えると、なんだかちょっと不安になる。

正しい方向にがんばっていれば、見てくれている人はいると思うけど。
果たして正しい方向に向かっているのだろうか。

単純にマンパワーの不足なのか、ちょっと・・・な場面も見受けられる。
まあそれも含めてクラブの力。
サポーターがたくさんお金を落とせばスタッフの数も増えて質もあがって、
いい企画も実現していくはず、である(と思いたい)。

とりあえず、他所のこと言っても仕方ない。
自分のクラブでも実現できるよう、がんばっていきたい。
とりあえず余分にグッズでも買うところから始めてみようか。



「GMをするならば、教会で働いていると思いなさい」

「ファンはサッカー関係者を嫌っていることを理解しなさい。
 最後にはファンと結婚しなさい」

甲府のGM佐久間氏が胸にとどめている言葉らしい。
(イギリスのGM講座で出会った言葉とのこと)

サポーターはすぐに、

「社長辞めろ」

とか、

「社長辞めろ」

とか、

「社長辞めろ」

とか言っちゃうし、おまけに、

「強化部は責任とれ」

とか、

「強化部を選んだ社長は責任をとれ」

とか、

「社長は責任取って辞めろ」

とかも言っちゃうんだけど、強化部の方ではこんなことを考えてくれているのである。
(少なくとも佐久間氏は)

これってキリスト教の「罪を犯した人を何度でも赦しなさい」ってことなんだろうけど、
サポーターの「不祥事」について処分を連発するフロントは、
少なくとも教会には勤めてないってことらしい。
裁判所にでも勤めているんだろうか。

2013年6月発売の「Jクラブ強化論」を読み返して、そんなことを感じたけれど、
日本で強化部やGMの話になると必ず出てくる名古屋の久米さんに、
レッズ、FC東京、ガンバ、甲府、水戸の強化部、それに元柏の小見さん、
代理人の稲川さんのインタビューで構成された本書は、
教会で勤めているかは別にして、彼らは彼らなりの相当な情熱、
信念をもって仕事をやり抜いてるってことを改めて感じさせるものとなっている。

そういう意味ではサポーターは読んでおいて損はないかな、と思う。

Jクラブ強化論
田中直希
ぱる出版
2013-06-05



また名古屋の久米さんは、

人を束ねる (幻冬舎新書)
久米 一正
幻冬舎
2012-03-30


という単著も出している。スポンサーから金を引っ張るための
資料作りの大切さ、なんかが書かれているので、
こちらも興味がある人は一読の価値あり。

名古屋の久米さんは2014シーズンは金も無くなったので
若手の活躍に期待するといってたけど、結局失速し
中断期に補強をした。名GMでもうまくいかないこともある。
(そして徳島も若い力にかけて降格しました・・・・・・)

しかし、この手のインタビューで徳島の話って聞いたことがない。
柿谷選手の絡みで結構取り上げられたことはあっても、
(島流しとまで言われたし)
それ以外で出てくることはないので、降格を機にどこかのメディアが
とりあげてくれないだろうか。
同じように情熱をもって仕事をしてるはずなんですが・・・。

職業サッカークラブ社長
野々村芳和
ベースボール・マガジン社
2013-04-11




確か札幌のサポーターだったと思うけど、

「サポーターが営業マンになってくれたらクラブはもっと成長できるとかいう。
 でも、営業するには商品をよく知らなきゃ売れるものも売れない。
 クラブはもっとサポーターに情報を出してほしい」

てなことを言っていた。実際こういうことをクラブは言ったりする。

サポーターが一人づつ知り合いを連れて来てくれればスタジアムは
今の倍のお客さんが来てくれる

とかなんとか。そんなことは言われなくてもわかっているし、
熱心な人は周りに声もかけ、時には身銭を切り人を集めているわけだが、
それでも今の現状なわけである(徳島の話です)。

2013年、コンサドーレ札幌は、解説などでサッカーファンにはおなじみの
野々村芳和氏が社長に就任。
その4月に本書「職業サッカークラブ社長」を出した。
帯にはこうある。

「SAPPORO宣言2013」

今は2014年。社長の報告会とかもあるみたいだけど、とりあえず2014版は
出版されていない。総括的な意味で毎年出せばおもしろいんだけど。

カバー裏には、

「一人一人のサポーターの力は無限大。
 サポーターは夢を実現する大切な仲間。
 同じ夢を共有する人たちと一緒に夢をかなえたい」

とあって、ビジョンが無いといわれる中、ビジョンもありそうだし、
実際レコンビンも獲ったし、小野伸二まで加入した。
それでも、冒頭のようなことをサポーターに言われてしまうのである。
サッカー界、なかなか大変だ。
勝ってればOKなところもあるし。

内容はと言えば、冬のゲームの問題から日本ハムファイターズの関係。ユースについて。
雑駁ながら現状の分析と、自身の半自伝的な要素で構成されている本書。
札幌ファンには必読。他サポにとっては、やはりやってみてどうだったか、
というのが聞きたいところ。

解説者的な意見は十分うまく言えることはわかっているので、
実務的な話を希望したい。
現時点でプレーオフの可能性は十分あるので、昇格でもしたら
続刊の可能性もあるのでしょうか。

2014年5月出版の新旧チェアマンによって語られたJリーグ改革論。
帯には「迷えるJはいったいどこへ行くのか?」
ということで、

Jリーグは再建しなきゃいけない存在であること

ということが大々的に喧伝されている。
NHKでも2ステージ制にしなきゃダメなんだ、って語ったらしいけど、
マイナスイメージを世間に発信していくのはどうなんだろうってのは
率直に思う。
それで客が来たいと思うだろうか。

ただ、村井氏が偉いのは、自分が前面に出てるところだろう。
以前は中西大介氏が矢面に立っていた。
昔パーティーの壇上で話してる中西氏を見たが、
でかいなぁというのが印象的だった。
(あいさつの内容はそつがなかった)

で、本書の内容は、

「金が無い」

ということに尽きる。
じり貧だ。このままではやばい。ゆでガエルだ。改革だ。
というわけで、冒頭に広告費の話を持ってくる。

Jリーグの広告枠は1枠3億の12枠で36億。
これを手数料10%の32億4000万で博報堂に販売。

Jリーグは枠が売れても売れなくてもこれだけの金額を確保でき、
博報堂は売り切れば3億6000万の利益がでる、わけだが
実際は4枠は売れ残り、博報堂は8億ほど持ち出し。

最近電通に代わってもマクドナルドを連れてきただけ。

Jリーグは魅力が無いことを直視しろサポーターども、
と言ってるかのようである(被害妄想)。

サポーターのみなさん、目を覚ましてください

ってことだろうか。

その後も、Jリーグの厳しい現状、観客微減だの視聴率だのと話は続く。

そんな中、

ベストは1ステージなのはわかってる。
そのための迂回。そのための2ステージ制、ということが強く説かれる。
頂上を目指すにはルートは一つではないとばかりに。
(2ステージにするとお金が確保できるらしい)

金が無いんだよ

と言われると反論しにくい(何しろ金が無いんだから)。
長渕剛は、

「銭はよぉ、銭はよぉ、そりゃ欲しいけどよぉ、
 なんぼ積んでも、なんぼ積んでも
 譲れねぇものがある」

と歌っていたが、お金が無いのは困るよね、と思う自分もいるわけである。

正直リーグは「決断できる自分」に酔ってるようにも思えるし、
決まったのならとにかくやるしかない、と思う人も出てくるだろうと
思える一冊。

反論するにしても、相手の主張を聞いておいた方がいい、
という意味ではJリーグに関心のある人は読んでおくべき一冊かなぁ。


Jリーグ本て売れないらしい。

話題になった中村慎太郎氏の著書も売り上げでは苦戦しているらしいし。
サッカー本てちょこちょこでてるからニッチな需要があるのかなと
思ってたけど、現実は厳しい。

エルゴラでそこらへん記事になったらしいので(すいません未見です)
ちょっと自分の書棚に並んでる関連本を紹介してみたい。

で、一冊目が、武藤泰明著 「プロスポーツクラブのマネジメント」。



今書店にあるのは第2版の改訂版で、僕の手元にあるのが
2006年に出た改定前のものだけれど、その帯には、

「JリーグGM講座のテキスト、待望の書籍化。実務者必携の書」

とある。クラブ側がどういう考えでマネジメントしてるのかってを知れるし
サポーターが読むと楽しめると思うんだけれど、
あんまり話題になってる風でもない。

まあこれをJリーグ本に関連付けていいのかはわからない(たぶん違う)。
4104円もするし。

章立てを見ると、

1…法人格とガバナンス
2…財務
3…選手・移籍・代理人
4…クラブチームの組織と人事
5…マーケティング
6…無体財産のマネジメント

で、値段といい内容と言いもろ経営学のテキストなんだけど、
サポーターに関することなんかは興味深い。
(回数券の会計処理上の問題、とかもおもしろいけど)

「サポーターはクラブチームにとって、重要なステイクホルダーとなっている例が
実際に見られる。

・・・一方、少なくとも平均像としては、サポーターはチーム運営の
専門家ではないし、マネジメントに長けているわけでもない。

・・・事業会社との比較で言えば、クラブチームにとってのサポーターとは、
企業の製品やサービスを熱烈に支持しているユーザーに例えるべき存在」

といい、したがって彼らにマネジメントをゆだねることはありえないが、
企業は熱心なユーザーの要望に対して耳を傾ける、とする。
その理由は、

「①ヘビーユーザーが企業の安定的な収益に貢献している。
 ②ヘビーユーザーのライフスタイル、製品購買行動、利用行動が、フォロワー層の
  ベンチマークとなる」

からであり、サッカーに例えると、

「①ファンクラブへの加入、シーズンシートの購入によって収益基盤となる
 ②サポーターとしてのライフスタイルを体現することによって、サポーター予備軍に
 対して、サポーターであることの素晴らしさを示す存在である」

とする。
(著者はこの2点は経済合理性の観点でありサポーターをこれで片づけてはならないとしている)
いま応援でいろいろ課題がでてきているけど、②のサポーターであることの素晴らしさを示す、
というところで、齟齬ができてきているのかもしれない。

しかしながら、

「サポーターはサポーターとして、独自のサブカルチャーを持ち得る主体である。
それが数人の集まりということもあるが、大きな組織になる場合も見られる。

そして大きなサポーター組織は独自の価値観を持ち、組織の拡大を指向し、
クラブチームに対して意見を表明する存在ともなる。欧州では、このような
巨大なサポーター組織がクラブチームの運営に関与する例が見られる。

重要なのは、このようなサポーターの活動が一種のサブカルチャーであり、
クラブチームの意思とは半ば独立しているという点である。その情熱は、
クラブチームにとって価値のあるものになり得る。逆にクラブチームの運営を
阻害することもあるだろうし、そのような場合でもサポーターの主張が理にかなっている
ということがある。

 意思決定や合意は、必ずしも択一的であるとは限らない。サポーターの意思と
クラブチームの位置が同じではないとしても、サポーターという社会文化的な
インフラの上にクラブチームが成立しているのは事実であり、またそれ故に
クラブチームとは価値合理性を追求することを使命とする」

とし、サポーターの価値を評価している。

また顧客満足の要因として、応援が華やかである、という点も挙げられており、
試合の価値の一部として評価もされている。

サポーターは、すぐに社長やめろとか言っちゃうけれど、
社長もいろいろ考えている、はずだな、と思える一冊。

サポーターも読んでいいんじゃないかな、と思います。
(どこを目指してるんだと言われなくもないけど)

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